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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)114号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願第一発明及び本願第二発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否を判断する。

1 成立に争いない甲第二号証の一(願書添付の明細書)及び第二号証の二(昭和五九年七月一二日付け手続補正書)によれば、本願発明は左記の技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる。

(一) 技術的課題(目的)

本願発明は、アルミナ・ベース触媒の物理的性質を特に改良した水素変換触媒、及び、それを用いる水素添加、水素脱金属、水素脱硫及び水素脱窒素のような水素変換方法に関する(明細書第三頁第三行ないし第六行)。

触媒の存在下で、水素を用いて鉱油を精製することは周知であり、右触媒は、通常一個又はそれ以上の固定床中に配置されるが、右固定床の入口又は出口、あるいはその両方は、水素変換に寄与しない物質(不活性物質)によつて支持あるいは保留される。これは、触媒床に溝が生ずるのを防止して原料の均一な供給を容易にし、かつ、原料中に存在する腐蝕生成物等を捕えてそれらが触媒床を塞ぎ脱活性化することを阻止するためである。しかしながら、触媒床は、典型的なたて型反応器においては一五mあるいはそれ以上の深さとなるから、不活性物質は、触媒床の重量による圧潰に抵抗できなければならない。また、多くの水素変換反応器においては、不活性物質は反応帯体積のかなりの部分(一五ないし二〇%、あるいはそれ以上)を占めるから、不活性物質の使用は、その費用のみならず、水素変換反応器を大型化させる問題点がある(同第三頁第七行ないし第四頁第一六行)。

本願発明の目的は、低費用で水素変換の効率を高めるために、不活性物質を、不活性物質本来の機能を果たし得るのみならず、所望の水素変換に寄与する活性触媒によつて置換することにある(同第四頁第一六行ないし第五頁第三行)。

(二) 構成

前記課題を解決するために、本願発明は、その要旨とする構成を採用したものである(同第五頁第四行ないし第一五行、手続補正書第二丁第四行ないし第九行)。

一般に、直径が六mmより小さい球状粒子の使用は、触媒の接触層を横切つて原料を供給する際一層容易に詰まり、また効率が一層低くなる傾向がある。反対に、約二五~三〇mmより大きい直径を有する球状粒子の使用は、有意的に一層低い活性を有する触媒をもたらす。また、一グラムにつき二〇〇平方メートルより小さい表面積を有するアルミナから製造される触媒は、水素変換に用いられるとき、アルミナ・ベース支持体が一グラムにつき二〇〇平方メートルを実質的に越える表面積によつて特徴付けられている本願発明の触媒に比べて、一層乏しい活性度を有する(明細書第五頁第一九行ないし第六頁第五行、第七頁第三行ないし第九行)。

本願発明の触媒は、アルミナ・ベース支持体と混合された族Ⅵ―Bの金属及びⅧの金属から成る。したがつて、例えば鉄、ニツケル、コバルト、白金、バラジウム及びイリジウムの少なくとも一種と共に、クロム、モリブデン及びタングステンの少なくとも一種を含む(同第八頁第一五行ないし第九頁第一行)。

本願発明の特に好ましい実施例は、原料が最初、及び(又は)最後に本願発明の触媒と接触する、たて型反応帯を利用するものである。すなわち、本願発明の触媒は、従来用いられていた不活性ペレツト、ボール又は球状体に取つて代わり、一層高い触媒活性及び変換効率をもたらす。現存の多くの水素変換方法に対しては、本願発明の触媒は、水素脱硫、水素脱窒素あるいは水素分解等のためにこれまで用いられていた触媒を保留しながら、不活性物質のみに取つて代わる。つまり、本願発明の触媒は、従来用いられていた触媒の上、及び(又は)下に数センチメートルないし数百センチメートルの深さを有する層で配置される(同第一一頁第一八行ないし第一二頁第一一行)。

(三) 作用効果

本願発明の完成触媒は、脱金属、脱硫、脱窒素あるいは水素添加のような種々の鉱油変換反応を遂行するために有用である(同第一一頁第二行ないし第四行)。

本願発明の触媒を用いて高められた反応帯の活性は、従来用いられていた操作温度を減ずるために使用でき、それによつて高価な燃料を維持し、与えられた変換度のための生産量を増加させ得る(同第一三頁第六行ないし第一〇行)。

2 一方、成立に争いない甲第三号証の四によれば、引用例1記載の発明は蒸溜残油を含む石油系炭化水素を接触水素化処理する場合に適した触媒の製法の改良に関するものであつて(第一欄第一七行ないし第一九行)、審決認定の技術的事項が記載されており、本願発明との間に審決認定の二点の相違点を有することは、原告も認めて争わないところである。

3 一致点の認定について

(一) 圧潰強度

前掲甲第三号証の四によれば、引用例1第七欄ないし第八欄の表1には、実施例1ないし3として、一〇六kg、八九kg及び六二kgの圧潰強度を有する球状シリカ・アルミナ系担体を使用して調整したモリブデン及びコバルトを含有する接触水素化処理用触媒が記載されていることは審決が認定のとおりであつて、それらが本願第一発明が要旨とする「三一・七kgより大きい圧潰強度」の要件を満たすことはいうまでもない。したがつて、本願第一発明と引用例1記載の発明とは、組成を同じくする球状触媒であつてその圧潰強度においても実質的に差異がないとした審決の認定に誤りはない。

この点について、原告は、引用例1には圧潰強度が本願第一発明の要件よりはるかに低い実施例も記載されていると主張する。確かに、前掲甲第三号証の四によれば、前記表1には圧潰強度が二一kgである実施例4が、また引用例1第一一欄ないし第一二欄の表4には圧潰強度が二五kgである実施例8が記載されているのは事実であるが、そうであるからといつて、引用例1にその発明の実施例として「三一・七kgより大きい圧潰強度」を有する球状担体が数例記載されていることに何ら変わりはないのであるから、原告の右主張は失当である。

(二) 適用分野

本願第一発明の触媒が「水素変換」に適用される触媒であることはその要旨から明らかであり、一方、引用例1記載の触媒も「接触水素化処理」用のものであることは前記のとおりである。したがつて、本願第一発明と引用例1記載の発明とは触媒としての適用分野においても軌を一にするとした審決の認定に誤りはない。

この点について、原告は、本願第一発明の触媒は従来必要とされていた防護床に取つて代わつて従来の触媒(固定床)を保持する機能をも果たし得るのに対して、引用例1にはその触媒を防護床として使用する可能性は示唆すらされておらず、両者は適用分野を異にすると主張する。しかしながら、本願第一発明の触媒が固定床を保持する防護床にのみ適用されるべきことは本願第一発明の要旨とされていないから、原告の右主張は発明の要旨に基づかないものであつて、失当である。

4 相違点の判断について

(一) 成立に争いない乙第一号証によれば、周知例には、個体触媒による接触反応に関して、「気相接触反応に用いられる触媒の大部分は多孔質であつて、粒子外面でもある程度の反応はあるけれども、触媒内面積の圧倒的な大きさ(数百m2/g触媒にも達する)を考えれば反応はほとんど粒子内部で起きるとみなしてよい。」(第一一頁第一五行ないし第一八行)、「工業的な触媒充填層では径三~一五mm程度の触媒が多く利用される」(第一一頁第二五行及び第二六行)と記載されている。また、固定層反応装置に関して、「1触媒を固定して使用するため触媒の消耗が少ない。しかし層積みするため自重に耐える強度は必要とする。2触媒の形状、大きさを自由に選択できる。」(第三五九頁第二七行ないし第二九行)、「触媒の有効係数を上げるために触媒粒子を小さくするとこの圧力損失が大きくなるので、この二律背反の要請に対し触媒粒子径を最適に決めることが重要になる。」(第三六〇頁第三〇行ないし第三二行)との記載がある。以上の記載によれば、固定床に用いられる触媒には粒子の直径が三ないし一五mm程度のものが使用されること、触媒は多孔質であればその表面積は数百m2/gにも達すること、圧力損失を少なくしようとすれば触媒粒子の直径は大きくせざるを得ないこと及び触媒粒子は自重に耐える強度を必要とすることは、いずれも、当業者には本件優先権主張日前に周知の技術的事項であつたと認められる。

(二) 直径の数値限定

固定床による接触反応においては圧力損失は触媒の粒径に依拠すること、及び固定床触媒として直径三ないし一五mmの触媒が用いられることは、前記のとおり本件優先権主張日前に周知の技術的事項であつたことが明らかである。

また、成立に争いない甲第三号証の二によれば、引用例2は「水素精製用の改良触媒および担体」に関するものであつて、直径約〇・〇一インチ~〇・五インチ(約〇・二五mm~約一二・七mm)の球状担体が〇~一五重量%のsio2としてのシリカを含有するアルミナから成り、約一〇〇~五〇〇m2/gの表面積を有すること(この点は原告も認めて争つていない。)、右担体は「固定床の操業に使用するのに十分な強度をもつ」(第四頁右上欄第一七行及び第一八行)、「もつとも望ましい具体化においては、水添脱硫化触媒を触媒担体上に、コバルトとモリブデンを沈着してつくる。」(第四頁左下欄第六行ないし第九行)旨が記載されていることが認められ、シリカ・アルミナ担体を使用する水素化処理用の触媒のうち約〇・二五mm~約一二・七mmの直径を有する球形状のものが固定床触媒として使用し得る事実が開示されている。

以上のとおりであるから、本願第一発明における触媒の直径の「六mmより大きい」との数値は、固定床触媒に採用される直径の通常の範囲であつて、シリカ・アルミナ担体を使用する水素化処理用の固定床触媒に適用される直径の数値にも正しく合致する。そして、前記周知例あるいは引用例2記載の技術的事項を参酌すれば、引用例1の水素化処理用の固定床触媒の直径を「六mmより大きい」数値に限定する程度のことは当業者ならば容易になし得た事項というべきであるから、直径の数値限定に関する審決の判断に誤りはない。

この点について、原告は、引用例2記載の触媒は本願第一発明が要件とする「三一・七kgより大きい圧潰強度」を有しないから、引用例2の記載から「三一・七kgより大きい圧潰強度」を有する触媒の直径が「六mmより大きい」ものであるべきことは予測され得ないと主張する。しかしながら、前掲甲第二号証の一によれば、本願明細書第五頁第一九行ないし第六頁第六行に「六mmより小さい球状粒子の使用は触媒の最初の接触層を横切つて供給物を配給する際一層容易に詰まりまた効率が一層小さくなる傾向になり、反対に約二五~三〇mmより大きい直径を有する球状粒子の使用は、有意的に一層低い活性を有する触媒をもたらす。九mmより大きい特に一三mmより大きい直径を有する粒子が好ましい。」と記載されているように、本願第一発明における直径の数値限定も、触媒の直径を小さくするとそれによつて構成される固定床の圧力損失が大きくなり、反対に触媒の直径を大きくすると接触効率が悪くなることが避けられない等、固定床触媒における周知の技術的事項を勘案してなされたものであることが明らかである上、固定床の圧力損失あるいは接触効率が触媒の圧潰強度の大小によつて左右されることを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は当たらない。

(三) 表面積の数値限定

前記のとおり、触媒が多孔質である場合はその表面積が数百m2/gにも達することは周知の技術的事項であるのみならず、シリカ・アルミナ担体を使用する水素化処理用の触媒のうち二〇〇m2/g以上の表面積を有するものが固定床触媒として使用されることが引用例2に開示されている以上、本願第一発明において触媒の表面積を「二〇〇m2/gより大きい」数値に限定したことに格別の新規性を認めることはできない。付言するに、前掲甲第二号証の一によれば、本願明細書には、触媒の表面積を右数値に限定した根拠としては「支持体は、一グラムにつき二〇〇平方メートルより大きく好ましくは一グラムにつき二五〇平方メートルより大きく、かつ一グラムにつき六〇〇平方メートルまであるいはそれ以上にわたり得る表面積によつてさらに特徴づけられる。一グラムにつき二〇〇平方メートルより小さい表面積を有するアルミナから製造される触媒は、該水素変換方法に用いられるとき、アルミナ・ベース支持体が一グラムにつき二〇〇平方メートルを実質的に越える表面積によつて先に特徴づけられている触媒に比べて一層乏しい活性度を有する。」(第六頁第一九行ないし第七頁第九行)旨の、触媒の表面積と活性に関して周知といわざるを得ない事項が記載されているのみであるから、表面積を右数値に限定したことによつて予測困難な格別の効果を奏し得たものと認めることもできない。

したがつて、水素化反応流体と触媒の接触効率を勘案し触媒の表面積を「二〇〇m2/gより大きい」数値に限定する程度のことは当業者ならば容易になし得た事項というべきであるから、表面積の数値限定に関する審決の判断に誤りはない。

この点について、原告は、周知例の記載は一般的多孔質触媒担体について述べたものにすぎないと主張する。しかしながら、本願第一発明の触媒も多孔質触媒にほかならないから、本願第一発明の触媒にも一般的多孔質触媒担体における表面積と触媒活性の理論的関係が存すると予測するのは当然のことであつて、本願第一発明が触媒の表面積を特定の数値に限定したことによつて奏する効果も当業者ならば容易に予測し得た範囲といわざるを得ない。したがつて、原告の右主張も失当である。

5 作用効果について

原告は本願第一発明の作用効果として、反応器の小型化及びそれによる設備経費の削減、並びに本願第一発明の触媒を防護床として使用することによつて奏される作用効果を主張する。しかしながら、反応器の小型化及び設備経費の削減は、防護床として不活性物質を収容する形式の固定床反応器において、本願発明の触媒を右不活性物質に代わる防護床として使用した場合にのみ奏される作用効果にすぎない(このことは、本願明細書(前掲甲第二号証の一)第四頁第一二行ないし第五頁第三行に「不活性物質の使用は、反応器が不活性物質を収容するため大型でなければならないためおよび供給原料の所望の水素変換に全く寄与しない不活性物質の費用のため水素変換処理の資金を増加させる。さらに反応帯における不活性物質の体積を、不活性物質の機能を行なうことができるだけでなく、所望の変換処理を高めることができる活性触媒で置換することにより現存の水素変換処理の効率を増加させることは非常に望ましいことであろう。かくして一層大きい効率かつ一層低い費用で水素処理を行なうことを可能にし得る触媒の開発が望まれた。」と記載されていることから明らかである。)。しかるに、本願第一発明が防護床に使用するものに限定されていないことはその要旨から疑いの余地がないから、原告主張の前記作用効果は、いずれも本願第一発明の作用効果として評価することはできないものといわざるを得ない。

したがつて、審決には、本願第一発明が奏する作用効果についての看過はない。

6 以上のとおりであるから、本願第一発明は各引用例記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定及び判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

1 本願発明の特許請求の範囲第1番目に記載されている発明(以下「本願第一発明」という。)の要旨

支持体として

六重量%までのシリカを含有するアルミナ、及び

各々、金属又はそれらの酸化物若しくは硫化物の形の、二ないし二〇重量%の族Ⅵ―Bの金属、及び

〇・五ないし一〇重量%の族Ⅷの金属

から実質的に成り、かつ、六mmより大きい直径、二〇〇m2/g(「m2/gm」とあるのは「m2/g」の趣旨と認められる。以下同じ。)より大きい表面積及び三一・七kgより大きい圧潰強度を有する、球状水素変換触媒。

2 本願発明の特許請求の範囲第8番目に記載されている発明(以下「本願第二発明」という。)の要旨

鉱油供給原料及び水素含有ガスを、一〇〇~五〇〇℃の昇温、全圧〇・三五~七〇〇kg/cm2で、左記の触媒を含有する反応帯に通し、そして水素変換された油を反応帯から回収することから成る、鉱油の水素変換方法:

支持体として、

六重量%までのシリカを含有するアルミナ、及び、各々、金属又はそれらの酸化物若しくは硫化物の形の、二ないし二〇重量%の族Ⅵ―Bの金属、及び

〇・五ないし一〇重量%の族Ⅷの金属

から実質的に成り、かつ、六mmより大きい直径、二〇〇m2/gより大きい表面積及び三一・七kgより大きい圧潰強度を有する、球状水素変換触媒。

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